Quorum と Interbank Information Network (IIN)
本日の朝方、無事 Ethereum のハードフォークが終わりました。Twitter でも喜びの声が各所から上がって和やかな雰囲気が心地よく感じました。 ハードフォークが無事終わるよう、尽力された開発者や関係者の方お疲れさまでした。
今回は、Quorum と Interbank Information Network (IIN)について調べたことをまとめてみました。
Quorum とは?
Quorum はJPモルガン・チェースが開発を行っている Ethereum ベースの分散型台帳プロトコルです。ノードは go-ethereum をベースにした OSS です。go-ethereum に更新があるたびにこちらも更新される関係になっています。
GitHub - jpmorganchase/quorum: A permissioned implementation of Ethereum supporting data privacy
もともと JPモルガンは Enterprise Ethereum と呼ばれる企業向け Ethereum プロトコル利用にフォーカスしたプロジェクトに参画しており、その成果として Quorum をリリースしたものと思われます。
企業向けイーサリアム「Enterprise Ethereum」が始動 – ブロックチェーンビジネス研究会
go-ethereum がパブリック利用前提のネットワークを構築するのに使用されるのに対して、Quorum は主にコンソーシアム型ネットワークを構築するために使用されます。実例としては、後で詳しく説明する Interbank Information Network (IIN) があり、銀行間送金だけでなく、あらゆる企業活動全般に利用できるようになっています。PoW/PoS のようなパブリック用途前提のコンセンサスアルゴリズムが不要になるので、その代わりにRaft-based ConsensusとIstanbul BFT、Clique POA Consensus の三つをサポートしています。
Interbank Information Network (IIN) とは?
Interbank Information Network (IIN) は Quorum を基盤に形成される 185 以上の銀行からなる銀行間送金用ネットワークになります。もともとの報道では、日本を含む75行でしたが、最近公開された資料から倍以上の数に膨れ上がったようです。
JPMorgan investor day slide shows their longer term plans for Ethereum Quorum. First, it discusses a replacement for Ripple called the iin with 185+ banks already signed up.
— Eric Conner (@econoar) 2019年2月28日
Then, it says JPM Coin will be a stablecoin issued on Quorum but will be compatible on other blockchains. pic.twitter.com/HPKUWDrXgN
JPモルガンと Ripple の間には過去に提携話がありました。
リップルではなく、自分たちのネットワークを作るのではないか? 確かにJPモルガンは実際に自身の台帳を構築できるかもしれません。しかしその開発にはは膨大な時間と費用を要します。リップル社は製品の開発に6年間を費やしたと知られています。あくまでも推測ですが、J.Pモルガンは研究開発に多大な時間を費やすのではなく、リップル製品を採用して、ブロックチェーン技術を使用して銀行に革命を起こすと考える事は妥当と言えるでしょう。
とコイン東京編集部では考察がありましたが、見事にその期待を裏切り、Ripple ではなく Ethereum を利用することに決めたわけですね。
なぜJPモルガンは独自路線に進んだか?
クリプトーーク!にて考察されています。"XRP にはボラティリティがあるので使いづらい"、"カウンタパーティリスクは問題にならない"とのことです。以前から、XRP を使うよりステーブルコイン(法定通貨ペッグIOU)を使ったほうが良いというリップルアンチの意見がありました。かつて、リップル愛好者は馬鹿げた主張と意に介さず、アンチを風説の流布とまで言いきり戦争を繰り広げていましたが、JPモルガンによってアンチの主張が正しかったことが証明されてしまいました(うーん笑)。
こんな意見もありました。
JPM going for Ripple's jugular
— Tushar Jain (@TusharJain_) 2019年3月1日
The bankers aren't going to use XRP to enrich Ripple Inc and a bunch of XRP holders. Why would they do that when they could enrich themselves instead? https://t.co/qZfUqLz4iI
Ripple 社とたくさんのXRP保有者を肥えさせるくらいなら自分たちに利益がある行動をするとのことです。
Ripple は以前から SWIFT と戦っていたわけですが、これからは IIN とも戦わなくなければなりませんね。
パブリックネットワークの Ethereum にとってこの一連の動きはプラスなのか?
EthHub の Eric Conner さん等、Ethereum 愛好者は Quorum と IIN に対して友好的な態度を示しています。IIN は閉じられたネットワーク内で銀行間送金を行うので、直接 Ethereum メインネットと接続することは今のところありません。なので、IIN で銀行間送金が行われるようになるからといって Ether が使われることも無いので価格に対して直接プラスになる要素はありません。
しかし、Quorum が Ethereum をベースに開発されているということで、Ethereum が銀行間送金に使える品質をもった OSS であることが裏付けられ、また、共通の技術を使っているために協業してお互いのソフトウェアを改良できるというメリットがあります。今後、この動きをみた企業は Quorum もしくは Ethereum を自社サービスや製品を開発するために積極利用する方向に舵をきるのではと想像します。
JPモルガンと Ethereum コミュニティは良好の関係になったとも言えるでしょう。もし、JPモルガンが Ethereum に敵意を持っているなら、独自の路線を選ぶか他のプロトコルをベースにするはずです。Ethereum にとっては心強い味方ができたと見てもいいでしょう。
まとめ
数か月前に Newsweek にて "インターネットを超えるブロックチェーン" というタイトルで特集が組まれました。内容はビットコインはほぼ関係なく、Ethereum のパブリック利用と Enterprise Ethereum の企業利用に焦点が当てられていました。JPモルガンのこれまでの動きと合わせて、ブロックチェーン=Ethereum という流れがほぼ出来たのかなと実感しました。
しばしば、仮想通貨は詐欺だがブロックチェーンは素晴らしい技術だという評価があります。このブロックチェーンとは Ethereum を指す未来になりそうですね。